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コラム

AI BPRは「強み」から始める ― 課題解決型を超える業務改革の3事例

公開日:2026年5月9日
相木悠一

相木 悠一

株式会社croppre 代表取締役 / AI推進パートナー

この記事のポイント

  • 1AI BPR には課題解決型と強み拡張型の2つの型がある ― 多くは前者一本で行き詰まるが、強み拡張型を選択肢に入れるだけで進む速度が変わる
  • 2「課題は何か」から「強みは何か」へ問いを変える ― AWSが3ヶ月の試行錯誤で到達した転換点。業務変革の満足度は3.63→5.0に到達した
  • 3強み拡張型は個別業務/個人の強み/事業構造の3つの抽象度で展開できる ― AWS・トップ営業・croppre自身の3事例で型を整理

AI BPR(AIによる業務プロセス改革)と聞いてまず思い浮かぶのは、「現場の課題を洗い出し、自動化できる業務を見つける」進め方ではないでしょうか。間違いではありません。ただ、この発想だけでは突破できない場面があります。

AWS Japanが2026年4月に公開したブログ「AI駆動型ビジネスプロセス・リエンジニアリング」では、3ヶ月の試行錯誤の末に「課題は何ですか?」という問いを捨てた経緯が公開されています。代わりに置いたのは「強みは何ですか?」。結果、業務変革の満足度は 3.63/5.0 から 5.0/5.0 にまで改善しました。

私たちは、AI BPRには課題解決型と強み拡張型(強みベースの業務改革)の2つの型があると考えています。強み拡張型を選択肢に入れるだけで、進む速度が変わります。

AI BPRには2つの型がある

BPR(Business Process Re-engineering、業務プロセス改革)は1990年代に流行した経営手法で、AIの登場で再び注目されています。私たちはAIで進めるBPRを、大きく2つの型に分けて捉えています。

  • 課題解決型BPR:既存業務の問題を洗い出し、AIで自動化・効率化する。属人化・手作業・待ち時間といった「困りごと」を起点にする
  • 強み拡張型BPR:うまくいっている業務や、強みを発揮している人・仕組みを起点に、AIでさらに増幅する

世の中のAI導入は圧倒的に課題解決型が多数派です。「困っていることを解決する」発想は自然だからです。

ただ、課題解決型は現場の抵抗を生みやすい。「あなたの仕事には課題がある」と言われている構造になるからです。一方の強み拡張型は、現場が「自分たちの強みをさらに伸ばす」と受け取れる。入口の問いが違うだけで、進む速度がまったく変わります

強み拡張型BPRの実例① ― AWSが3ヶ月で到達した「問いの転換」

AWS Japanの久保貴弘氏が公開した試行錯誤は、最初は教科書通りのBPR手法でした。現状業務を可視化し、課題を洗い出し、AIで解決可能なポイントを探る。ところが、どの企業でも結論は同じだったといいます。「結局、人間的な対応が必要ですね」。AIの可能性は語られても、業務変革には繋がらない。

理由はシンプルで、「課題は何か」と問われた現場は、無意識に身構えるからです。変化を脅威と感じた組織が変化そのものを止めてしまう。組織論では古くから知られた現象です。

転換点は、問いを「強みは何ですか?」に変えたこと。満足度は 4.2/5.0(初期)→ 3.63(変革直後の谷)→ 5.0/5.0 に到達したと公開されています(数字は支援先からのフィードバック平均)。あるロジスティクス企業の経営層からは「問題先行ならこの提案は受け入れていなかった」というフィードバックが返ってきたといいます。

私(相木)がこの事例を読んで強く共感したのは、「強みの増幅」こそAI活用の本質だからです。自分でAIを使い込んで感じるのは、AIはもともと強い人をさらに増幅する道具だということ。得意な領域ほどAIへの指示が的確になり、出力の良し悪しを見抜けて、活かし方も思いつく。だからAIと組み合わせた成果は、強みのあるところほど大きく出ます。

ところが組織にAIを導入するときには、「弱いところを補う」発想が先に立ちやすい。属人化解消、ミス削減、教育コスト圧縮 ― 課題起点で入ると、AIが本来発揮するはずの強みの増幅効果が見過ごされる。AWSが「強みは何か」へ問いを変えた本質は、AIの効きどころと組織の発想を一致させることだったように思います。

強み拡張型BPRの実例② ― トップ営業の勝ちパターンをAIで組織化する

AWS事例が「個別業務の中で強みを伸ばす」型なら、次は「個人の強みを組織に汎用化する」型です。業種を営業に置いていますが、熟練オペレーター・ベテラン技術者・優秀な品質管理担当など、再現したい属人的な強みがある領域なら同じ発想が使えます。

「営業の属人化」は中堅企業の典型的な悩み。課題解決型なら、プロセスを標準化し、CRMを入れ、教育資料を整備する方向になります。強み拡張型なら、トップ営業の手法をAIで分解し、全員に展開するアプローチを取ります。

トップ営業から「顧客に投げかけている質問パターン」「案件の見極め基準」「提案書の勝ちパターン」を抽出し、AIに「この案件にトップ営業ならどう考えるか」を再現させる。新人が商談前にAIに相談すれば、即席でトップ営業の思考を借りられます。

出発点は「営業プロセスに課題がある」ではなく「トップ営業の中に再現可能な強みがある」。同じ目的でも、現場の受け止め方はまったく違います。

強み拡張型BPRの実例③ ― AIを起点に新しい事業構造を作る(croppreの実例)

3つ目は、私たちcroppre自身の話。「AIの強みを起点に事業構造そのものを組み替える」型です。

中堅企業向けにAI推進支援を提供するうえで、最初の接点をどう作るかが課題でした。教科書通りなら「展示会で名刺を集め、メール配信を自動化」 ― 典型的な課題解決型です。

私たちが選んだのは個社AI活用診断レポートという新しいアウトプット形式。各社のWebサイトや公開情報から、事業構造に合わせたAI活用シナリオをAIで一次ドラフトを生成します(素材集め・戦略設計・最終レビューは人)。中堅企業1社に対して個別の調査・分析・提案を作るのは、人手だけでは経済的に成立しません。AIを業務の中心に据えたからこそ成立する形式です。

既存のセールスプロセスを「AIで効率化」したのではなく、AIの強みを起点に新しい入口を組み立てた。元の業務を否定しないので、推進にも抵抗が生まれにくい構造です。

課題解決型と強み拡張型、どちらを選ぶべきか

3つの実例は、強み拡張型の3つの抽象度(個別業務/個人の強み/事業構造)を示しています。とはいえ課題解決型と強み拡張型は対立するものではなく、状況に応じて使い分けるものです。

状況 向いている型
業務の課題が明確で、現場も「直したい」と合意している 課題解決型
規制・コンプライアンス起点で標準化が必須(品質管理・経理など) 課題解決型
ヒアリングしても課題が出てこない、現場が身構えている 強み拡張型
トップ営業・熟練オペレーターなど、社内に再現したい勝ちパターンがある 強み拡張型
AIを前提にすれば、これまでできなかったサービス・商品が作れそう 強み拡張型

AI BPRが「PoC止まり」になる原因の一つは、課題解決型一本で進めていることです。問題発見が組織防衛を誘発する構造に気づかないまま、現場との対話に苦労する。

強み拡張型を選択肢に入れるだけで、進め方の幅が広がります。「うまくいかない」と感じたときに、型を変えるオプションを持てる。これだけでも価値があります。

AI BPRでヒアリングが進まない、PoCはやったが本格展開に進まない、という状況にあるなら、問いの立て方を見直してみてください。「強みは何か」から始めるという選択肢があります。最初の一歩は、社内で「うまくいっている業務/人」を1つ特定し、その強みをAIで再現・増幅できないかを問うところから始められます。

AI BPRの進め方をもう一段具体に落とし込むには、業務タイプ別の選び方をまとめた「AI活用の5つのアプローチ ― 業務に合うAI導入法の選び方」が参考になります。強み拡張型BPRで「強みは何か」を現場からどう聞き出すかについては「各部署へのAIヒアリング ― 現場の本音を引き出す聞き方と進め方」で、聞き方のテンプレートまで踏み込んで解説しています。

よくある質問 ― AI BPRについてよく聞かれること

Q1. AI BPRと従来のBPRは何が違うのですか?

BPR(Business Process Re-engineering、業務プロセス改革)は1990年代に流行した経営手法で、業務を抜本的に組み替えて生産性を上げる発想です。AI BPRは、その実装手段としてAIを中心に据えた業務改革を指します。違いは「何で実装するか」だけではありません。AIは強みのある領域ほど成果が増幅される性質があるため、本記事で示した「強み拡張型」というアプローチが、従来のBPR(基本は課題解決型)にはなかった選択肢として加わります。

Q2. 課題解決型BPRと強み拡張型BPR、どちらを先に試すべきですか?

状況によります。記事中の判定表のとおり、課題が明確で現場合意ができている業務、規制対応で標準化が必須の業務(経理・品質管理など)は課題解決型が向いています。一方、ヒアリングしても課題が出てこない、トップ営業や熟練オペレーターの強みを組織化したい、AI前提で新サービスを設計したい、といったケースは強み拡張型が適しています。両者は対立するものではなく、業務ごとに使い分けるものです。

Q3. 強み拡張型BPRはどこから始めればいいですか?

最初の一歩は、社内で「うまくいっている業務/人」を1つ特定することです。トップ営業、熟練オペレーター、品質管理のベテランなど、再現したい属人的な強みがある領域を選びます。次に、その人が無意識にやっている判断・質問・パターンをAIに分解させ、他の人にも使える形に落とし込みます。最初から全社展開を狙わず、1つの業務・1人の強みから始めるのがポイントです。

Q4. AI BPRが「PoC止まり」で終わるのはなぜですか?

PoC止まりの原因は複数ありますが、本記事の論点に近いところで言えば「課題解決型一本で進めて、現場との対話に苦労した」パターンが多くあります。「課題は何か」と問われた現場は身構え、変化を脅威と感じた組織が変化そのものを止めてしまう構造があるからです。問いを「強みは何か」に変えるだけで、現場の受け止め方が変わり、推進の速度が上がります。

Q5. 強み拡張型BPRに、特別なAIツールは必要ですか?

特別なツールは必要ありません。ChatGPT・Claude・Geminiなど一般的な生成AIで始められます。重要なのはツールではなく「入口の問い」と「対象業務の選び方」です。トップ営業の思考をAIに再現させる、熟練オペレーターの判断パターンを共有する、といった用途は、汎用の生成AIに業務の文脈と過去の事例を読み込ませるだけで一定の成果が出ます。本格化するタイミングで専用エージェントの構築を検討すれば十分です。

この記事を書いた人

相木悠一

相木 悠一

株式会社croppre 代表取締役 / AI推進パートナー

2017年、京都大学在学中にアフリカで創業。4年間、小売業界向けの業務システム開発に従事。

2021年に帰国後、AI開発に軸足を移し、自社業務にAIエージェントを導入して同業比5倍の生産性を実現。その過程で顧客企業から「AI推進の相談役をやってほしい」と声がかかり、中堅企業のAI推進チームの一員として戦略策定からエージェント開発まで伴走する現在のスタイルに至る。

AIグランプリ2025春 イノベイティア賞受賞

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