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活用ヒント

AI導入のための現場ヒアリング ― 本音を引き出す聞き方と進め方【テンプレート付き】

公開日:2026年4月3日
相木悠一

相木 悠一

株式会社croppre 代表取締役 / AI推進パートナー

「各部署にヒアリングしたけど何も出てこなかった」「AIの説明会みたいになってしまった」。展示会や相談の場で、この声を繰り返し聞いてきました。

ヒアリングの質問票を持って部署を回った。けれど返ってきたのは「特にない」「全部自動化してほしい」。ヒアリング結果を経営に持ち帰ったが、「で、何から始めるの?」と聞かれて答えられない ―

この状況に身に覚えがあるなら、問題は「何を聞いたか」ではなく「どう聞いたか」にあるかもしれません。この記事では、仮説を持って臨み、意見ではなく事実を引き出す ― 現場の本音を引き出すヒアリングの具体的な進め方をお伝えします。

この記事のポイント

  • 1「AIで何がしたいですか?」と聞いても答えは出ない ― 部署の人は業務の専門家であってAIの専門家ではない。役割を分けることがヒアリング成功の鍵
  • 2ヒアリング前に課題仮説とAI改善仮説を立てておく ― 「漠然と聞く」を「仮説を検証する」に変えるだけで、引き出せる情報の質が変わる
  • 3意見ではなく事実を聞く ― 「困っていますか?」ではなく「直近でそれが起きたのはいつですか?」と過去の具体エピソードを引き出す
役割分担のフレームワーク図 ― 業務課題を話すのは部署の人の仕事、AIで何ができるか考えるのはAI推進側の仕事

経営者・経営企画の方へ:

この記事はAI推進担当者が「どう聞けば現場の本音を引き出せるか」を解説しています。ポイントだけ掴みたい方は「この記事のポイント」(3行)と最初のセクション(役割分担の考え方)をお読みください。推進担当者に「この記事の方法でヒアリングしてほしい」と共有いただくのも有効です。

  • □ 部署に「AIで何がしたいですか?」と聞いたが、「特にない」で終わった
  • □ ヒアリングで要望は出たものの、AIの説明会のようになってしまった
  • □ 課題を集めたが、「で、何から始めるの?」と聞かれて答えられなかった
  • □ 現場が本音を話してくれている実感がない

ヒアリングの質問票を持って部署を回った。けれど返ってきたのは「特にない」「全部自動化してほしい」。ヒアリング結果を経営に持ち帰ったが、「で、何から始めるの?」と聞かれて答えられない ―

この状況に身に覚えがあるなら、問題は「何を聞いたか」ではなく「どう聞いたか」にあるかもしれません。過去にDXやIT導入で「現場の声を聞いたはずなのに、結局使われないシステムができた」という経験があるなら、なおさらヒアリングの設計が重要です。

従業員150〜1,000人規模の中堅企業でのヒアリング実践から見えてきたのは、現場の本音が出てこない原因の多くは「聞き方の設計」にあるということでした。仮説を持って臨み、意見ではなく事実を引き出す。この進め方を、実践に基づいて具体的にお伝えします。

「AIで何がしたいですか?」だと答えが出にくい理由

よくある失敗パターン ― ヒアリングで何も出てこない

AI推進担当者が最初にぶつかる壁が、部署へのヒアリングです。多くの場合、次の3つのパターンのどれかに陥ります。

パターン1:「AIで何がしたいですか?」と聞く。 部署の人は業務の専門家であって、AIの専門家ではありません。「AIで何ができるか」がわからない人に「何がしたいか」を聞いても、答えようがない。結果として「特にない」「わからない」で終わるか、「全部自動化してほしい」のような抽象的な要望が出ます。

パターン2:AIの説明会になってしまう。 「AIでこんなことができます」と説明してから「皆さんの部署ではどうですか?」と聞く。AIの説明に時間を取られ、肝心の業務課題の把握が浅いまま終わる。部署の人は「すごいですね」とは言いますが、自分の業務とどう繋がるかは見えていません。

パターン3:要望は出るが、優先順位がつかない。 全部署から聞いた要望を並べたが、どれから手をつけるべきかわからない。「声が大きい部署」から始めてしまい、全社的な最適にはならない。

問題の構造 ― 役割分担の不在

これらの失敗パターンに共通するのは、「何を聞くか」と「何を考えるか」の役割分担がないことです。

うまくいくケースでは、こういう役割分担になっています。

  • 部署の人に聞くこと:業務の専門家として、普段何に困っているか。実際にどういう業務プロセスでやっていて、どこにどんな課題感があるか
  • AI推進側が考えること:その課題をAIで改善できるか。できるならどう改善するか。優先順位はどうか

この役割分担があると、ヒアリングは「要望を受け付ける場」から「業務の実態を把握する場」に変わります。部署の人にとっても、「AIのことはわからないから答えられない」というプレッシャーがなくなり、自分の得意分野(業務の話)で貢献できるようになります。

AI推進側がこの役割を担うためには、推進体制そのものの設計が前提になります。「推進担当者がまだ決まっていない」「誰に任せるべきかわからない」という段階であれば、先に推進体制を整えることが優先です。

この役割分担を前提にすると、ヒアリングの技術も変わります。「意見を聞く」のではなく「事実を引き出す」聞き方が必要になる。次のセクションから、その具体的な方法を順に解説します。

相木悠一 相木

どうせヒアリングするなら、いろんなネタを見つけたいですよね。そのためのヒントとして読んでもらえると嬉しいです。

仮説検証ヒアリング ― 準備で差がつく

なぜ仮説が必要なのか

ヒアリングの成否は事前準備で決まります。仮説なしのヒアリングは「何でも話してください」と言うのと同じで、相手も何を話せばいいかわかりません。

仮説があると、聞く側が「何を検証したいか」が明確になり、質問が具体的になります。相手も「こういうことを聞きたいのか」と会話の方向が見え、答えやすくなる。仮説が当たれば深掘りし、外れれば「では実際はどうですか?」と切り替えることで新しい発見につながります。

ここで大事なのは、仮説は「正解を当てること」が目的ではないということです。仮説をぶつけることで、相手の口から事実が出てくる。それが目的です。仮説が外れたこと自体が「実態は想像と違う」という貴重な情報になります。

課題仮説とAI改善仮説の立て方

仮説は2種類、セットで立てます。

課題仮説は「この部署ではこういう課題があるのではないか」という仮説です。立て方のコツは、部署の業務内容から「手が止まりそうなところ」「繰り返し発生しそうな作業」「情報が散在していそうなところ」を想像すること。情報源は社内の業務マニュアル、組織図、その部署の上長やAI推進の窓口担当者への事前ヒアリング、過去の業務改善プロジェクトの記録などが使えます。

AI改善仮説は「その課題はAIでこう改善できるのではないか」という仮説です。ただし、ヒアリングの場では言いません。AI推進側の頭の中に持っておくだけ。持っておくことで、ヒアリング中に「この情報はAI施策の設計に使える」と意識でき、聞くべきポイントを見逃しにくくなります。

仮説は1部署あたり2〜4本が目安です。多すぎると焦点が散ります。

事前準備の具体的なステップ

  1. 対象部署の業務概要を把握する ― 部署の主要業務、扱うデータ、関連部署との連携ポイントを確認する
  2. 「この業務をAIでこうできるのでは?」をセットでブレストする ― 最初から課題とソリューションを分けようとせず、「こういう作業をAIでこんなふうにできそう」というアイデアを2〜4本出す。情報源は業務マニュアル、組織図、上長への事前ヒアリングなど
  3. 課題仮説とAI改善仮説に分解する ― ブレストで出したアイデアを「課題(部署に聞くこと)」と「AI改善仮説(AI推進側の頭の中に持っておくこと)」に分ける。AI改善仮説はヒアリングの場では出さない
  4. ヒアリング項目を設計する ― 各仮説を検証するための具体的な質問を用意する(次のセクションで詳しく解説)
  5. ヒアリング対象者を決める ― その業務を実際にやっている人に聞くのが鉄則。管理職だけに聞くと「現場の温度感」が抜け落ちる

準備は80%で十分です。 完璧を目指して動かないより、仮説2本で明日聞きに行く方がはるかに良い。仮説が外れても、外れたこと自体が情報になります。準備に1ヶ月かけるより、粗くても1週間で1部署目を回す方が学びが多い。

おすすめは、ChatGPTやClaudeなどの汎用AIに壁打ちすること。 対象部署の業務概要を入力して「この業務でAIが活用できそうなポイントはどこか」と聞くだけで、仮説のたたき台が出てきます。それをベースに取捨選択すれば、1〜2時間で事前準備は十分に回ります。

「AIでどう解決できそうか」のあたりをつけるのが難しいと感じる場合は、AIに詳しい外部パートナーに壁打ち相手になってもらうのも有効です。仮説の精度が上がるだけでなく、ヒアリング後の施策変換もスムーズになります。私たちも30分の無料相談でお手伝いできますので、気軽にご活用ください。

ヒアリング全体の期間感

1部署あたりの所要期間は、事前準備(2〜3時間)+ヒアリング本番(1.5〜2時間)+結果整理(1〜2時間)で約1日です。結果整理はヒアリングの録音をAIで文字起こし・要約すれば大幅に短縮できます。

  • パイロット(1〜2部署):1〜2週間で一巡できる
  • 全社展開(10〜20部署規模):パイロットで手法を固めてから1〜2ヶ月。並行して複数部署を回せば短縮できる

パイロット部署の選び方は、「協力的な上長がいる」かつ「課題が見えやすい(繰り返し作業や手作業が多い)」部署を優先するのが鉄則です。最初の1部署で成果を出すことが全社展開の起点になるため、難度の高い部署より「成功体験を作りやすい部署」から始める方が結果的に速く進みます。

組織規模が大きい場合(500人以上)の補足: 部署数が10を超える組織では、推進担当者1人で全部署を回すのは現実的ではありません。パイロットで型を固めた後、各部署の窓口担当者にヒアリングの進め方を共有し、分担して並行実施する体制を組みます。このとき、ヒアリング結果の粒度を揃えるために、本記事のテンプレートを共通フォーマットとして統一してください。全社展開の前に部門長への事前説明(ヒアリングの目的・所要時間・報告の流れ)を行っておくと、各部署の協力が格段に得やすくなります。

推進体制がまだ整っていない場合は、先に推進者を決めてからヒアリングに入る方が効果的です。

仮説検証ヒアリングの全体フロー ― 事前準備(課題仮説+AI改善仮説)→ヒアリング本番(3段階)→結果整理→施策変換の流れを示した構造マップ
相木悠一 相木

実際にクライアント先で部門ヒアリングの準備をするとき、課題仮説を3本くらい立てておきます。仮説が当たらないことも大歓迎、むしろ「いや、実はそうじゃなくて…」と相手の口から本当の課題が出てくると、ヒアリングとしては成功です。

ヒアリング本番 ― 事実を引き出す聞き方

事前準備で仮説を立てたら、いよいよ本番です。ここでは、冒頭の切り出し方から、「意見」ではなく「事実」を引き出す聞き方までを解説します。

冒頭の切り出し方 ― 御用聞きのスタンスで入る

ヒアリングの最初の1〜2分で、場の空気が決まります。ここで「AIの調査に来ました」という雰囲気を出すと、相手は構えてしまう。大事なのは、「皆さんの業務をAIで楽にしたい。そのために、今のやり方や困っていることを教えてほしい」という御用聞きのスタンスで入ることです。

冒頭で伝えるのは3点だけ。

  1. 目的:「皆さんの業務をAIで楽にしたり改善したいと思っています。そのために、今の業務のやり方や困っていることを教えてください」
  2. 所要時間:「今日は1.5〜2時間ほどお時間をいただいています」
  3. 安心感:「AIの知識は一切不要です。業務のことを一番知っているのは皆さんなので、普段の仕事の話をそのまま教えてください」

「御用聞き」のスタンスが重要な理由は、相手に「自分たちのために来てくれている」と感じてもらうためです。「調査」や「ヒアリング」という言葉自体が相手にとってはプレッシャーになることもある。「教えてください」「聞かせてください」というトーンで入ると、相手も自然体で話しやすくなります。

The Mom Testとは ― 意見ではなく事実を聞く

The Mom Test(Rob Fitzpatrick著)は「お母さんに聞いても嘘をつかない質問の仕方」を体系化した手法です。原則はシンプルで、相手に「いいと思う?」と意見を聞くと気を使って「いいんじゃない」と言ってしまう。代わりに「直近でそれが起きたのはいつ?」「そのとき具体的にどうした?」と過去の事実を聞きます。

AI推進のヒアリングに応用するとこうなります。

NG(意見を聞いている) OK(事実を聞いている)
「この作業は大変ですか?」 「直近でこの作業に手間取ったのはいつですか?そのとき具体的にどうしましたか?」
「AIがあったら便利だと思いますか?」 「この作業を先週1週間で何回やりましたか?1回あたり何分くらいかかりましたか?」
「業務の課題はありますか?」 「先月、予定より時間がかかった案件はありましたか?何が原因でしたか?」

本当に困っていれば、具体的なディテールがスラスラ出てきます。 出てこなければ、課題の深刻度は低いというシグナルです。相手の反応自体が重要な情報になります。

ヒアリングの3つの段階

1回のヒアリング(1.5〜2時間)は、3つの段階で進めます。

段階1:業務フロー全体を確認する(15〜20分)。 最初にやるべきことは、その部署の業務の全体像を理解することです。「○○の仕事は、最初に何から始まって、最終的にどこに出すところまでですか?一通りの流れを教えてください」。この段階では深掘りしません。全体を俯瞰する。流れの中で「ここは大変そうだな」というポイントが見えてきます。「その流れの中で、手が止まる・時間がかかると感じる工程はどこですか?」と聞くと、次の段階への橋渡しになります。

段階2:課題仮説をぶつけて深掘りする(30〜40分)。 段階1で見えた課題ポイントと、事前に準備した課題仮説を照合します。仮説が当たっている箇所を深掘りし、外れている場合は「では実際はどうですか?」で切り替える。深掘りの質問は以下のテンプレートが使えます。

  • 「直近でそれが起きたのはいつですか?」(事実を引き出す)
  • 「そのとき具体的にどうしましたか?」(行動を引き出す)
  • 「それは週に何回くらい発生しますか?1回あたり何分くらいかかりますか?」(数字を引き出す)
  • 「その不便さを解消するために、自分たちで何か工夫を試みたことはありますか?」(本気度を測る)

段階3:仮説外の発見を拾う(残り時間)。 ヒアリングの最中に仮説になかった課題が出てくることがあります。これが一番の宝です。「それ以外に、普段の業務で『ここはなんとかしたい』と感じていることはありますか?」と聞く。ここでも「何でもいいので困りごとを教えてください」より、段階1・2で業務の話をした流れを活かす方が、相手も具体的に思い出しやすくなります。

感情のシグナルを追う ― 「本丸」の見つけ方

ヒアリング中に最も重要なのは、相手の感情が動いた瞬間を見逃さないことです。

  • 声のトーンが変わった ― 普段と違う熱量で話し始めた
  • 前のめりになった ― 体が前に出た、話すスピードが上がった
  • ため息をついた ― 「これが本当に大変なんですよ…」
  • 言い淀んだ ― 言いにくいことがある(=本音に近い)

これらのシグナルが出たら、予定の質問を飛ばしてでもそこを深掘りします。感情が動いたポイントに「本丸」がある。反対に、淡々と話される課題は「困ってはいるが、最優先ではない」シグナルの可能性があります。

数字を引き出す ― 「大変」を「何時間」に変える

「大変です」「時間がかかります」で終わらせず、具体的な数字まで落とすことが重要です。

数字が重要な理由は3つあります。AI施策の優先順位づけに使える(「月20時間」vs「月2時間」で優先度が変わる)。経営への報告で説得力が出る(「大変そうです」vs「月80時間を費やしています」)。導入後のROI計算の基礎データになる。

聞き方のコツは、期間を限定することです。「何時間くらいですか?」だけでなく「先週1週間だと、合計で何回・何時間くらいでしたか?」と直近の具体的な期間を区切ると答えやすい。正確でなくて構いません。「感覚的にはこれくらい」で十分です。

ヒアリング時のスタンス ― ソリューションは後

ヒアリングの場はあくまで実態把握です。「AIでこうできます」は聞かれない限り言いません。ソリューションの話を始めると、相手は「それでいいのかな」と考え始め、課題の深掘りが止まります。「業務を理解しようとしてくれる人」という信頼関係を先に作る方が、結果的に質の高い情報が集まります。

全部署のヒアリングが終わってから、AI推進側で施策の全体像を設計する方が優先順位の精度が上がります。例外として、相手から「これってAIでできるんですか?」と聞かれた場合は、簡潔に可能性を伝えてください。「可能性はあります。詳しくはヒアリング結果を整理してからご提案します」くらいで十分です。

相木悠一 相木

クライアント先でヒアリングをしていると、ある話題になった途端に話すスピードが上がったり、具体的なエピソードがスラスラ出てくる瞬間があります。そこが深掘りすべきポイント。事前に用意した質問の順番にこだわるより、相手の反応を見て掘るところを決める方がうまくいきます。

ヒアリング結果をAI施策に変換する

ヒアリングで課題を聞き出した後、そこで止まってしまうケースは少なくありません。「課題は集まったが、どうすればAI施策になるのかわからない」。ここからは、ヒアリング結果の整理から施策変換・経営報告までの流れを解説します。

ヒアリング結果の整理 ― 課題を構造化する

ヒアリングで出てきた課題を以下の項目で整理します。

整理項目 記録する内容
課題の内容 何が起きているか(事実ベースで記述)
影響範囲 何人が関わっているか、どの部署にまたがるか
頻度と工数 どれくらいの頻度で発生し、1回あたりどれくらいの時間がかかるか
現場の温度感 ヒアリング時の反応の強さ(感情シグナルの記録)
AI適用可能性 AI推進側が判断。AI以外の方法で解決できるものも切り分ける

複数部署のヒアリング結果を突き合わせると、部署横断の共通課題が見えてきます。たとえば、ある部署では「原料の情報を調べるのに時間がかかる」、別の部署では「同じ原料の情報を別の形式で管理している」。個別に聞いているときは気づきませんが、並べると「これは全社のデータ基盤の問題だ」とわかる。部署横断の共通課題はトップダウン施策の候補になります。

「AIで解決すべき課題」と「それ以外」を切り分ける

ヒアリングで出てくる課題の中には、AIではなく既存ツールやプロセス改善で解決できるものが混ざっています。

  • AIが効くケース:非定型データの処理、大量のパターン認識、自然言語の理解が必要な業務
  • 既存ツールで十分なケース:単純なデータ転記(RPA/マクロで対応可)、フォーマット統一(テンプレートで対応可)
  • プロセス改善で解決するケース:承認フローの見直し、マスタデータの更新ルール整備

AIで解決する課題については、どのアプローチ(チャットAI、ノーコードワークフロー、AIエージェントなど)が適しているかを判断します。各アプローチの選び方は「AI活用の5つのアプローチ」で詳しく解説しています。

施策の優先順位づけ

ヒアリングで把握した課題を、投資額×期待効果の2軸で並べます。ヒアリングで数字を引き出しておくと、この優先順位づけの精度が格段に上がります。

最初に着手する施策(クイックウィン)は、「投資が小さく、効果が見えやすい」ものを選ぶのが鉄則です。最初の1件で成果を出すことが、経営の信頼獲得にも、次の施策への予算確保にも、他部署からの協力にもつながります。

優先順位づけの詳しい方法は「AI推進、最初にやるべきこと」の「数珠繋ぎ」フレームワークで解説しています。

まずは自社でヒアリングを回してみることが出発点です。

AI推進ヒアリングテンプレートのプレビュー

AI推進ヒアリングテンプレート(Excel)

事前準備シート+ヒアリング項目テンプレート+結果整理シートの3シート構成。記事の手法をそのまま自社で実践できます。

ダウンロードする

経営層への報告 ― 「何が見つかったか」と「次に何をするか」

ヒアリング結果は、経営判断を引き出せる形に整理して報告します。「こんな声がありました」の羅列だけだと、経営者は次のアクションを決めにくい。

報告は以下の4点に絞ってください。

  1. ヒアリング結果のサマリー ― 何部署を回り、主な課題は何だったか
  2. 課題の優先順位 ― 工数×インパクトの2軸で整理した一覧
  3. 最初に着手すべき施策 ― クイックウィンの候補とその理由
  4. 必要なリソース ― 予算・人・期間の目安

このフォーマットで報告すれば、経営者は「じゃあこれから始めよう」と意思決定できます。テンプレートDLの結果整理シートにこのフォーマットを組み込んでいます。

ここまで、仮説検証ヒアリングの準備・実施・施策変換の流れを解説しました。ただ、ヒアリングだけですべての課題を拾いきれるとは限りません。現場が業務中にふと気づく「これもAIでできるのでは?」という声は、計画的なヒアリングの場では出てこないことが多いからです。

ボトムアップの受け皿を並行で回す

なぜ両輪が必要なのか

仮説検証ヒアリングは、AI推進側が能動的に課題を探しに行く手法です。計画的で網羅性が高い。しかし、AI推進側が想定していない課題が現場にはあります。業務をやっている最中に「これもAIでできるのでは?」と思いつくことがある。この種の気づきはヒアリングの場では出てきません。

手動ヒアリング(能動的)と相談窓口(受動的)を両輪で回すことで、課題の取りこぼしを防げます。

どちらか一方では不十分です。手動ヒアリングだけだと現場発のアイデアを逃す。相談窓口だけだと「待ち」の姿勢になり、課題の網羅性が低くなる。そして見逃しやすいのが、手動ヒアリングと相談窓口は時間差で補完し合うということです。ヒアリングで業務の全体像を把握した後、相談窓口から「あのとき話しそびれたけど、実はこれも…」と追加の情報が上がってくることがある。ヒアリングが呼び水になって相談窓口が活性化します。

相談窓口の設計 ― ハードルを下げ、反応を速く

窓口を機能させるポイントは3つです。

ハードルを低くする。 専用フォームやチャットチャンネルを用意し、入力項目は最小限にします。「この業務、AIでできないですか?」を気軽に投げられる場所にする。10項目のフォームだと、忙しい現場の人はなかなか書く気になれません。一言でOK、正解かどうかはAI推進側が判断するから気にしなくていい、というトーンにしておくのがポイントです。

レスポンスを速くする。 相談があったら24時間以内に「受け取りました。近日中にお話を聞かせてください」と返す。返事がないまま時間が経つと、「言っても動かないんだな」と思われてしまいます。

相談結果をフィードバックする。 「この相談から、こういう施策を検討しています」と伝える。フィードバックがないと「言っても何も変わらない」と思われる。最初の1件への対応が窓口の成否を決めます。

相談窓口から上がってきた案件も、前のセクションで解説したヒアリング結果と同じフォーマットで整理し、優先順位づけに統合します。全社展開のボトムアップの仕組みについては「AI活用を全社に広げる4つの条件」のボトムアップの柱で詳しく解説しています。

相木悠一 相木

自分の業務改善でも、最初から全部を洗い出そうとするより、「困ったときにメモを残す」という仕組みを作った方が漏れが減りました。組織の相談窓口も同じ構造です。仮説検証ヒアリングは計画的な「攻め」、相談窓口は日常的な「受け」。両方あって初めて全体が見えてくる。

結論 ― ヒアリングは「聞く」のではなく「引き出す」

3つの原則を押さえれば、ヒアリングは変わる

現場の本音を引き出すヒアリングの鍵は、3つの原則に集約されます。

役割を分ける。 業務の課題を話すのは部署の人の仕事。AIで何ができるか考えるのはAI推進側の仕事。この分担があるだけで、相手のプレッシャーが消え、本音が出やすくなります。

仮説を持って臨む。 「漠然と聞く」を「仮説を検証する」に変える。仮説が当たらなくても、対話のきっかけになり、相手の口から事実が出てきます。

意見ではなく事実を聞く。 「困っていますか?」ではなく「直近でそれが起きたのはいつですか?」。感情のシグナル ― 声のトーン、前のめり、ため息 ― を見逃さない。そこに「本丸」があります。

ヒアリングと並行してボトムアップの相談窓口を設けておけば、ヒアリングでは拾いきれない課題も漏れなく拾えます。

今日からできること

  1. 次のヒアリングの前に、対象部署の課題仮説を2〜4本書き出してみる
  2. 「AIで何がしたいですか?」を「普段の業務で一番時間がかかるところを教えてください」に変えてみる
  3. ヒアリングテンプレートをダウンロードして、事前準備→本番→結果整理のサイクルを回す
  4. ヒアリング結果を施策に変換し、「投資額×期待効果」で優先順位をつける(詳しい方法は「AI推進、最初にやるべきこと」を参照)
  5. ヒアリングの設計やファシリテーションに不安があれば、AIに詳しい外部パートナーへの壁打ちも選択肢です

ヒアリングは「聞くこと」ではなく「引き出すこと」です。役割を分け、仮説を持ち、事実を聞く。この3つを意識するだけで、次のヒアリングはきっと違うものになります。まずは1つの部署で試してみてください。

判断を含めて壁打ちしたいなら、30分の無料相談で一緒に整理できます。

よくある質問 ― AI推進のヒアリングについてよく聞かれること

ここまで読んでいただいた中で、「うちの会社だとどうだろう」と感じているポイントがあるかもしれません。よく聞かれる疑問について、もう少し踏み込んでお話しします。

Q1. ヒアリングは全部署に実施すべきか?

全部署を一度に回す必要はありません。まずはAI推進のパイロット候補となる1〜2部署から始めるのが現実的です。パイロット部署でヒアリング→施策実行→成果を出してから、その実績を持って他の部署に展開する方が、協力を得やすくなります。「全部署一斉にヒアリング」は準備も大変ですし、施策に着手できない部署が長期間「聞かれただけ」の状態になり、信頼を損なうリスクもあります。

Q2. ヒアリングは1回で終わらせるべきか、複数回に分けるべきか?

課題を聞き出す1回目と、ソリューションの方向性が見えた上で細かい要件を詰める2回目に分けるのがおすすめです。1回目で業務課題と現場の温度感を把握し、AI推進側で「この課題にはこのアプローチが使えそうだ」とあたりをつけてから、2回目で「実際にこういう形で改善するとしたら、ここの詳細を教えてほしい」と聞く。1回で全部やろうとすると、課題の把握が浅いまま要件の話に入ってしまいがちです。

Q3. ヒアリング対象者は管理職がいいか、現場担当者がいいか?

実際に手を動かしている人に聞くのが鉄則です。管理職がプレイングマネージャーで自分も業務をやっているなら、管理職で問題ありません。ポイントは肩書きではなく、「その業務の具体的なやり方や所要時間を自分の体感で語れるかどうか」です。マネジメント専任の管理職だけに聞くと、現場の温度感や細かいボトルネックが抜け落ちがちです。

Q4. AI改善仮説が的外れだった場合、ヒアリングは無駄になる?

なりません。むしろ、仮説が外れたときの方がヒアリングの価値は高いことが多いです。「こういう課題があるのでは?」とぶつけて「いや、実はそうじゃなくて…」と返ってきたとき、相手は自分の言葉で本当の課題を語り始めます。仮説がなければこの反応は引き出せません。AI改善仮説も同じで、「AIでこう解決できそう」というあたりが外れること自体が「この業務の本質的な難しさはそこじゃない」という発見になります。大事なのは仮説の正解率ではなく、仮説を持つことで会話に具体性が生まれること。外れた仮説は次のヒアリングの精度を上げる材料になります。

Q5. ヒアリングで部署から反発や非協力的な反応があった場合はどうすればいいか?

「また調査か」「忙しいのに」という反応が出ることはあります。多くの場合、過去のIT導入プロジェクトで「ヒアリングされたけど何も変わらなかった」という経験が背景にあります。対策は3つ。まず、ヒアリングの目的を「AIを入れるための調査」ではなく「業務を良くするための相談」として伝える。次に、所要時間を明示する(「1時間だけお時間をください」)。そして最も効果的なのは、パイロット部署で成果を出してから展開すること。「あの部署はヒアリングの後に実際に改善された」という実績があれば、他部署の協力は得やすくなります。

Q6. 外部パートナーにヒアリングを依頼すべきか?

AI推進担当者が自社でヒアリングできるなら、それがベストです。社内の信頼関係がある人が聞く方が、本音が出やすい。一方で、ヒアリングの設計(仮説の立て方、質問項目の設計)やファシリテーション(聞き方のコツ、深掘りの判断)に不安がある場合は、外部パートナーに同席してもらう・設計を手伝ってもらうのは有効です。「外部の人がいると本音が言いにくい」という懸念もありますが、逆に「社内の人には言いにくいことを外部の人になら言える」ケースもあります。自社の文化に合わせて判断してください。外部パートナーの選び方については「AI推進のパートナー選び」で詳しく解説しています。


ヒアリングは「聞くこと」ではなく「引き出すこと」です。役割を分け、仮説を持ち、事実を聞く。この3つを意識するだけで、次のヒアリングはきっと違うものになります。まずは1つの部署で試してみてください。

この記事を書いた人

相木悠一

相木 悠一

株式会社croppre 代表取締役 / AI推進パートナー

2017年、京都大学在学中にアフリカで創業。4年間、小売業界向けの業務システム開発に従事。

2021年に帰国後、AI開発に軸足を移し、自社業務にAIエージェントを導入して同業比5倍の生産性を実現。その過程で顧客企業から「AI推進の相談役をやってほしい」と声がかかり、中堅企業のAI推進チームの一員として戦略策定からエージェント開発まで伴走する現在のスタイルに至る。

AIグランプリ2025春 イノベイティア賞受賞

無料ダウンロード
AI推進ヒアリングテンプレートのプレビュー

AI推進ヒアリングテンプレート(Excel)

記事の「仮説検証ヒアリング」をそのまま実践できる3シート構成のExcelテンプレートです。

  • 事前準備シート ― 部署概要・課題仮説・AI改善仮説を整理
  • ヒアリング項目テンプレート ― 3段階の質問項目+The Mom Test式の質問例
  • 結果整理シート ― 課題一覧・優先順位づけ・経営報告フォーマット付き

以下のフォームからすぐにダウンロードできます

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